2012年5月の月別アーカイブ

インバウンドのプロジェクトを通して、「今ある基軸」を見据えることの大切さを改めて実感

カテゴリー: マチオリの方向性

2011年度、ある大企業からの依頼により、街オリは中国・台湾からの日本への観光客(訪日観光客)を対象としたインバウンド・マーケティング・プロジェクトに初めて取り組みました。今回はそこから得られた知見の一例と、そして街オリはインバウンドとどう向き合っていくべきか考えたことをお伝えします。
 
■調査をすると、事実が鮮明に見え、次の一手につながる
 
近年、アジアの国々の成長は著しく、日本ではその果実を取り込むことが課題・機会として重視されています。そうした中、今回のプロジェクトは、訪日観光客に焦点を当てながら新規事業の可能性を探るものでした。より具体的には、観光地へのヒアリング調査、中国人・台湾人観光客の方々へのアンケート調査、上海での展示会への出展などを実施し、そこからの考察をまとめました。
 
例えばアンケート調査を取りあげると、今回は中国・台湾からの訪日観光客653名に調査票を配布し、148名からの有効回答を得ました(有効回答率22.7%)。
 
このアンケート調査からは、いくつかの興味深い発見がありました。例えば好印象の宿泊施設の設問で上位を占めたのは、清潔感のある宿泊施設、サービスがしっかりしている宿泊施設でした。施設が古くても「人の手の行き届いている」宿泊施設の好感度が高いという結果です。
 
また、148名の回答者のうち86%が好印象と記載した施設からの情報を受け取りたいと回答し、そのうち70%の方が実際に電子メールのアドレスを記入しています。この高い正の回答率は、来て下さったお客様に連絡を取り続ければ、口コミでの広がりやリピーター獲得の可能性があることを示しています。現状、ほとんどの施設・地域がそう出来ていないことを考えると、機会損失が発生していると言えます。
 
他にも、訪日観光客と日本人との間で共通する点が多いとも感じました。たとえば、日本で何が印象に残ったかという設問に対して、148人中76人が雪の白川郷、黒部立山の雪景色、富士山の美しい景観などを挙げており、自然・歴史景観を愛でる感性は日本人と通じるものがあると言えます。
 
■インバウンドに基軸をあわせるのではなく、今ある基軸・強みをよりしっかりと認識することが大切
 
今回のプロジェクトに取り組んだことは、街オリの「インバウンド」に対する姿勢を考える良い機会になりました。そして「インバウンドの為に全てを合わせるのではなく、基軸はぶらさず、インバウンドのお客様にも対応できる体制を整える」ことを、支援する際の基本姿勢にしたいと思っています。
 
これは今回のプロジェクトの様々な調査を通してまとまった考えですが、その中でもある宿泊事業の経営者の話が強く記憶に残っています。その経営者は、まずそのホテルの成功要因としてお客様のニーズを踏まえた徹底的な合理化を進めていることを語った後、「私たちは、例えば中国のお客様にあわせて宴会場をつくるということはしない。それをすると、これまで進めてきた合理化と言う自分達の強みが損なわれる。インバウンドについては、それに経営を合わせるということはせず、自分達の経営スタイルを求めて下さるお客様を探しに行く」ことが大切ときっぱり言い切りました。
 
これは特に長期的視野で経営を考えた時に、とても重要なことだと思います。現在目の前にある機会に合わせることだけを考えていると、例えば安っぽい観光地を生むことにつながります。そうしたものは、時代が変わればすぐに廃れるでしょう。
 
インバウンドは向かい合うべき機会であるからこそ、これまでに培ってきたもの、人の心に根づくものをしっかりと捉えながら、どうインバウンドに結び付けていくかが持続・発展する地域・事業作りにとても大切です。
 


この原稿は、街オリ代表の佐々木が口述したものを、「コトミ 〜 言葉で見える形に」を活用し、ライターが書面化致しました。

街オリのオフィスと夕焼け

カテゴリー: 未分類

夕焼けの雲がきれいだったので、オフィスのビルと一緒に写しました。
右下の白い建物が、街オリが入っているビルです。

地元と首都圏の両方で南さつまの魅力を感じる『南さつま・食の体験フェスティバル』を開催

カテゴリー: マチオリの方向性

■生産者との触れ合いを体験して頂くイベント
 
去る3月16日から18日に『南さつま・食の体験フェスティバル』という、南さつまの食と酒の生産現場を体験して頂くイベントを開催しました。鹿児島県薩摩半島の西南端にある南さつま市は鹿児島弁で「隅っこ」を表す「すんくじら」とも言われ、海や山の自然がとても豊かな土地です。そうした地域の魅力を知って頂くため、漁船に乗って定置網漁を体験して天然のブリを食べたり、金柑の生産農家で実際に金柑を摘んでジャム作りを体験したり、お茶の生産農家を訪ねたりと、南さつまの生産者の生業を直に体感して頂くイベントでした。他にも焼酎蔵で焼酎造りを体験したり、鹿児島黒豚の加工工場を案内して頂いたりと様々な体験をすることが出来ました。
 
■首都圏だけでなく、地元の方々にも参加して頂けるイベントに
 
この企画の開催は2010年3月以来5回目なのですが、これまでは主に首都圏の人に南さつまを体感して頂く機会を創っていたのに対して、今回は地元の方々に参加して頂けるよう窓口を設けたことが大きな特徴です。イベントの名称も地元の方向けの『南さつま・食の体験フェスティバル』と、首都圏向けの『さつま・すんくじらツアー2012年春!』の両方で打ち出しました。
 
首都圏からの参加者は、南さつまをただ観光して頂くのではなく、生産現場を体験することで、地方が「食」を育んでいることをより身近に感じられる有意義な時間を過ごせたと感じています。そして夜は地元の方々との飲み会を開催し、他人行儀ではない触れ合いも出来ました。
 
そして、今回からの試みである地元参加者の方々の反応がとても印象的でした。「鹿児島に住んでいても漁船に乗ってブリを獲るところなんて見たことがないから、とても面白かった」という声も頂きました。「これはもっと多くの人に知ってもらうべき」と言って頂けたことをとても嬉しく感じました。
 

 
■地域全体で取り組む地域活性
 
南さつまは地域の結びつきがとても強く、地元が一丸となって様々な新しい地域活性の試みをしています。今回は地元の方々にも来て頂ける新しい体制を整えましたが、まずは試行的であったため、あまり告知が出来ずに開催日に至りました。次回開催を予定している7月末くらいまでには、よりしっかりとした体制を地元と首都圏の両側で整えたいと考えています。遠くからでもぜひ行こうと思って頂ける南さつまの魅力を深堀りし、それを活かすイベントを目指したいと思います。
 
そして同時にあくまで堅苦しいものではなく、受入れ側も参加側も自然な形で接することが出来る、良い意味で肩の力が抜けた形が良いとも感じています。楽しみながら体験することを通じて人の輪が広がり、その広がりがその後の日常の営みの活性化にも繋がっていけばと思います。
 


この原稿は、街オリ代表の佐々木が口述したものを、「コトミ 〜 言葉で見える形に」を活用し、ライターが書面化致しました。

全力で伝えたいことを、全力で伝えても伝わらない相手に、如何に伝えるか

カテゴリー: マチオリの方向性

「全力で伝えたいことを、全力で伝えても伝わらない相手に、如何に伝えるか」。これは人材育成における根幹的なテーマの一つです。この記事では、街オリがこのテーマにどのような考えを持っているか、そして人材育成・研修事業の展開はどのような意義を持っているかをお伝えします。
 
■言葉で伝えるためには、厳しさと優しさとのバランスが大切
 
「全力で伝えたいことを、全力で伝えても伝わらない」ことは多々あります。例えば組織の上下関係について、私が社会人1年目の時には「上下関係は極力無い方が個々人の実力が生き、組織として力が出る」と思っていました。しかし実際に仕事をすると、世の中に新しい価値を生み出すためには、複数の人間が一つの方向に力を合わせることが重要なこと、そしてその為に上の者と下の者の役割分担、すなわち上下関係が必要なことが分かってきました。しかし、このことを上の人が下に人に真直ぐに語っても、受け入れられないことが多いでしょう。私自身、いろいろと痛い目にも合う中で実感したことであり、経験が違えば認識が異なることは当然です。
 
経験を経て成長することは勿論大切ですが、それと同時に言葉で伝えられるなら伝えたいこともあります。その際に大切な事の一つは、厳しさと優しさとのバランスだと考えています。優しさだけでは伝わらず、厳しく叱られてこそ気づくことが多々あります。しかし、厳しさが相手の受容範囲を超えると相手が精神的に壊れてしまうことがあり、やはり伝わりません。そのため「全力で伝えたいこと」を伝える時には、優しさと厳しさのバランスを取り、相手が受容できる範囲内の厳しさで伝えることが重要です。
 
厳しさの受容範囲には、個人差があります。受容範囲が広い、いわゆるタフな人は、成長ポテンシャルが大きく、組織にとっては採用したい人材です。しかし、どんなにタフな人でも限界はあり、その限界の見極めが肝要であると感じています。
 
■別の視点から人材育成を考える機会でもある、研修事業
 
街オリが自社内の人材育成を考えると同時に、人材育成・研修事業に取り組んでいることは、このテーマと向かい合うとても良い機会を得ていると感じています。
 
研修事業者にとって研修を受けている方々は、メッセージを伝えたい相手であると同時にお客さまです。そのため上からの目線でない謙虚な姿勢で、相手の心理状態を捉えようとします。同じ組織内であれば「なぜ言っていることが分からないのか」となりがちなところを、一呼吸置くよう自分を律することの求められる環境が、とても貴重です。
 
それと同時に、研修参加者に心地良いことだけを伝え、組織の中で求められる「あるべき姿」を見失うと、研修の意義はないとも考えています。研修事業はお客さまのいるサービス業ですが、お客さまのためになるためには、時に厳しい先生でなければならず、このバランス感覚が大切です。
 
自らの組織内だと上(全体)の目線から人材育成を考え易く、外の組織に提供する研修事業では全体の目線が欠け易い。これら双方の立場で人材育成を考えられる機会を活かし「全力で伝えたいことが、伝わる」よう、見識を培って行きたいと思います。
 
■人材の「あるべき姿」の根幹部分への洞察を常に深める
 
人材育成は企業経営においても地域活性化においても根幹にあるテーマです。そして活躍できる人材像はどちらも共通している部分が多いと感じています。当たり前のことを当たり前にやる力、深く考え抜く力、チームワークを大切に出来る力は、どちらにおいてもプロジェクトを成果に結びつけるために必要です。私が引き受けている大企業を対象とした研修が、中小事業者など地域における人材育成の参考になると感じることも多々あります。その逆もまた然り。
 
街オリはそうした人材の「あるべき姿」の根幹部分への洞察を常に深めながら、その上で、その組織その人に応じた人材育成に取組むことを目指しています。
 
追記、地域活性化は長期に渡る取組みが必要であること、その間ずっと外部の力が推進力になり続けることは困難であること、それ故に地元に推進力となれる人材がいることが大切であることを、地域活性化のプロジェクトに携わる経験を重ねるほど、痛感しています。
 


この原稿は、街オリ代表の佐々木が口述したものを、「コトミ 〜 言葉で見える形に」を活用し、ライターが書面化致しました。

実用性の中に美しさを見出す、街オリのデザイン哲学

カテゴリー: ラーニング・メモ

■実用性の中に美しさを見出す日本人の美意識
 
広島県の鞆の浦を訪れた際、ボランティアガイドの方に江戸時代にとても裕福だったという一族の家屋に案内してもらい、そこに使われている木について興味深い話を伺いました。その木は以前、船底に使用されていたもので、とても自然に建物の一部を成しており、持ち味もあって大変優雅に見えました。しかしなぜそこに船底の木を使ったのかというと、長年海に浸かっていた木は塩水を十分に含んでいるため白アリなどが付かず、非常に強いからという理由でした。見栄えのために使用したのではなく、あくまで実用性を考えて使用し、それが結果的に美しさになったとのこと。そしてそのボランティアガイドの方が添えてくださった一言がとても印象的でした。
 
「日本人の美意識は、生活の中の知恵や必要性から見出されるものであり、見栄えが先にきているのではない。実用性の中に美しさを見出していくことが日本人の感性の特色なのではないか。」
 
この話は、実に大切なことを言い表していると感じました。
 

 
■日本人の美意識に通じる街オリのデザインに対する考え方
 
街オリがデザインを手掛ける際に大切にしたいことも、実用性の中に美しさを見出すことです。例えばホームページは整頓されたものを、商品のパッケージは商品が棚に並び、消費者が向ける目線までを想像して、分かりやすいものを作る。如何にすればメッセージが伝わるかを考え抜くからこそ生まれる美しさがあります。こうした美しさを追求し、最終的に人の心に届くようしたいと思います。遊びからくるデザインもあっていいと思いますが、あくまで実用性・機能性を追求した上で加えたい。
 
消費者が求めることを把握するマーケティングをしっかりと行い、それに沿う機能美を追求した上で感性に響くものこそが、街オリが打ち出していくデザインではないかと思います。そしてそれは日本人の美意識に通ずるとも思います。
 
■ひとつひとつのアートを見つめながら、デザインで横につなぐ役割を
 
デザインとアートとを対比すると、ひとつの定義として、アートは自分の中に起点があり、デザインは相手の中に起点がある気がします。アートは追求することで自分自身をこじ開け、新しい可能性を生むことができる一面があると思います。一方、デザインは「世の中の求めに応えること」だと思います。街オリの本分である地域の光る原石をもっと世の中に出していくためには、このデザインの追求がとても大切です。
 
アートがひとつひとつの可能性を開くのに対して、デザインはそうしたひとつひとつを横に繋ぐものとも言えます。街オリはひとつひとつのアートをしっかりと見つめながら、それらを横につなぐ、織りなす役割を担っていきます。
 


この原稿は、街オリ代表の佐々木が口述したものを、「コトミ 〜 言葉で見える形に」を活用し、ライターが書面化致しました。