インバウンドのプロジェクトを通して、「今ある基軸」を見据えることの大切さを改めて実感

カテゴリー: マチオリの方向性

2011年度、ある大企業からの依頼により、街オリは中国・台湾からの日本への観光客(訪日観光客)を対象としたインバウンド・マーケティング・プロジェクトに初めて取り組みました。今回はそこから得られた知見の一例と、そして街オリはインバウンドとどう向き合っていくべきか考えたことをお伝えします。
 
■調査をすると、事実が鮮明に見え、次の一手につながる
 
近年、アジアの国々の成長は著しく、日本ではその果実を取り込むことが課題・機会として重視されています。そうした中、今回のプロジェクトは、訪日観光客に焦点を当てながら新規事業の可能性を探るものでした。より具体的には、観光地へのヒアリング調査、中国人・台湾人観光客の方々へのアンケート調査、上海での展示会への出展などを実施し、そこからの考察をまとめました。
 
例えばアンケート調査を取りあげると、今回は中国・台湾からの訪日観光客653名に調査票を配布し、148名からの有効回答を得ました(有効回答率22.7%)。
 
このアンケート調査からは、いくつかの興味深い発見がありました。例えば好印象の宿泊施設の設問で上位を占めたのは、清潔感のある宿泊施設、サービスがしっかりしている宿泊施設でした。施設が古くても「人の手の行き届いている」宿泊施設の好感度が高いという結果です。
 
また、148名の回答者のうち86%が好印象と記載した施設からの情報を受け取りたいと回答し、そのうち70%の方が実際に電子メールのアドレスを記入しています。この高い正の回答率は、来て下さったお客様に連絡を取り続ければ、口コミでの広がりやリピーター獲得の可能性があることを示しています。現状、ほとんどの施設・地域がそう出来ていないことを考えると、機会損失が発生していると言えます。
 
他にも、訪日観光客と日本人との間で共通する点が多いとも感じました。たとえば、日本で何が印象に残ったかという設問に対して、148人中76人が雪の白川郷、黒部立山の雪景色、富士山の美しい景観などを挙げており、自然・歴史景観を愛でる感性は日本人と通じるものがあると言えます。
 
■インバウンドに基軸をあわせるのではなく、今ある基軸・強みをよりしっかりと認識することが大切
 
今回のプロジェクトに取り組んだことは、街オリの「インバウンド」に対する姿勢を考える良い機会になりました。そして「インバウンドの為に全てを合わせるのではなく、基軸はぶらさず、インバウンドのお客様にも対応できる体制を整える」ことを、支援する際の基本姿勢にしたいと思っています。
 
これは今回のプロジェクトの様々な調査を通してまとまった考えですが、その中でもある宿泊事業の経営者の話が強く記憶に残っています。その経営者は、まずそのホテルの成功要因としてお客様のニーズを踏まえた徹底的な合理化を進めていることを語った後、「私たちは、例えば中国のお客様にあわせて宴会場をつくるということはしない。それをすると、これまで進めてきた合理化と言う自分達の強みが損なわれる。インバウンドについては、それに経営を合わせるということはせず、自分達の経営スタイルを求めて下さるお客様を探しに行く」ことが大切ときっぱり言い切りました。
 
これは特に長期的視野で経営を考えた時に、とても重要なことだと思います。現在目の前にある機会に合わせることだけを考えていると、例えば安っぽい観光地を生むことにつながります。そうしたものは、時代が変わればすぐに廃れるでしょう。
 
インバウンドは向かい合うべき機会であるからこそ、これまでに培ってきたもの、人の心に根づくものをしっかりと捉えながら、どうインバウンドに結び付けていくかが持続・発展する地域・事業作りにとても大切です。
 


この原稿は、街オリ代表の佐々木が口述したものを、「コトミ 〜 言葉で見える形に」を活用し、ライターが書面化致しました。